日本では神にお神酒をお供えし、そのおさがりを神と共飲することで神の霊力が分与されるという信仰があると言われます。
酒は百薬の長とも言われます、せっかく飲む酒は美味しく楽しく飲みたいものです。飲み方も時代と共に変化が見られますが、まずは日本酒の基礎を確認してみましょう。
日本酒の種類
日本酒とは米と米麹、水から作られる酒のことです、品質に関しては国税庁が定める酒税法に定められています。日本酒は特定名称酒と普通酒に分類されます。双方の違いは使用する原材料の違いや、米の精米歩合の差です。「純米酒」という名称があります、本来日本酒はすべてが混ぜ物の無い酒⁼純米酒でしたが、先の戦時体制の物資不足から糖類等の混入が認められ戦後もそれが続いてきたという状況です。
美味しい酒を味わうためには、特定名称酒をお勧めします、本醸造酒(アルコール添加あり)純米酒、吟醸酒等です。本醸造酒でアルコールを添加するのは、味を調えるためです。また吟醸酒はその作り方より、フルーティーな香りが特徴的です。
普通酒は安価なことより根強く残っており、パック酒の多くは普通酒です。居酒屋で使われている酒は基本的に普通酒です。普通酒には、添加する糖類やアルコールの量の要件がありますが、その中で美味しい酒をめざして成功している例もあり、そんな「安くて旨い酒」を探すのも楽しいでしょう。私の愛飲酒の一つに、「しぼりたて」という普通酒があります、灘の酒ですが、まるで吟醸酒のようなフルーティー感があります、夏は冷酒で、冬は低価格の純米酒に混ぜて味わっています。価格は双方とも1.8Lで約1千円位ですから日常酒には丁度です。
日本酒業界の変化
「夏子の酒」の漫画等でも明らかになっていますので時効でしょう、日本酒業界には桶売り桶買いという制度がありました。中小の造り酒屋が自社の作った酒を全量大手業者に販売し、大手業者はそうして仕入れた酒をブレンドし自社銘柄として販売していました。
大手業者は不足する原酒の調達、桶売りする側は経営の安定という目的があったのでしょう。当時は酒に限らず「ブランド」信仰が根強い時代であり、お中元お歳暮の酒は、灘や伏見の有名な酒でなければ失礼だというのが社会常識でした。当時の状況を書いた故開高健さんのエッセーには「酔えればどんな酒でもよい」という飲み手と、日本酒全体の売り上げが減少する中で、自社で作りたい酒を作り販売することに踏み出せない業者を叱る痛烈な批判がありました。日本酒の味を味わうよりも、皆で酔えれば良いという時代背景もあり、それが日本酒の地位低下を招いたとも言われています。
それから数十年経ちました、かつて桶売りでしのいでいた業者が、今では純米酒や吟醸酒を中心に、全国銘柄になっているのを見ると感動を覚えます。桶売りは当然それなりのレシピ:使用する原材料や質の条件があるはずですが、それが技術の向上につながった面もあると言われています。それにしてもよく努力されたものだと敬服します。
新しい動き
新しい飲み方や新分野の酒も登場しつつあります、私がお勧めするのは(酒税法上では従来の酒ですが)、発泡性の清酒です。もともと日本酒は発酵時に炭酸ガスが発生するのですが、それを生かして作られています、別途炭酸ガスを添加する方式もあるようですが、美味しい銘柄はまるでシャンペンのような感覚があります。一度シャンペンと飲み比べてみることをお勧めします。
その他お勧め
これも酒税法上新しい酒ではないのですが、原酒や生酒というものがあります。原酒は出来上がったばかりの酒でまだ加水調整をしていない酒、アルコール度数が高く強烈な感じがあります。生酒は、通常1~2回実施する加熱処理をしていない酒です。完成時に酵母が生きていれば発酵が進み味も変わるので加熱します。方法は40年前に見た知識ですが、パイプをタンク内に回し入れ熱湯を循環させていました。当然温度と時間の計算があると思います。生酒については、その名の通り、フレッシュでフルーティーな味がします。造り酒屋のすぐ隣にある居酒屋では、毎日造り酒屋のタンクから仕入れて提供していましたが、随分人気の酒でした。
もう一つのお勧めは「蔵開き」です。秋に酒米を収穫し仕込む、1.2月頃本格的に日本酒が出来上がります、幾つかの造り酒屋ではこの時期に蔵を開放します、勿論有料ですが、その蔵のいろんな純米酒や吟醸酒を堪能することができます。お酒の知識も増えて、一層美味しいお酒を味わうことができるようになるでしょう。日本酒の旨さを判断する指標として、辛口甘口等言われますがまず飲んでみる事です、是非一度、体験することをお勧めします。
終りに
最初は宗教的な意味があった日本酒ですが、今では随分様子が変わってきました。「ハレの日」の「特別なもの」であったものが、今は誰でも、いつでも飲めるようになりました。飲み方も変わり、サラリーマンが上司の一声で飲みに行く時代は終わったようです。集団で飲むスタイルからグループや仲間内で飲む方向に変わりつつあります。
お酒を飲む理由も変わりつつあります、毎日の重労働の疲れをお祭りや酒宴で癒し地域への帰属意識を高揚する時代がありました。戦後の成長期にはその地域が会社へ変わりました。今は多様です、一日の疲れを取る、ストレスの解消、気分の高揚、美味しい料理を味わいたい、一体感を味わいたい等々が言われています。これも時代と共に、働き方や社会環境により変化するものでしょう。
「適量の酒は健康にプラス、病気の予防効果もある」というのがほぼ定説になっています、ただこの適量は、最大で1日当り日本酒で1~1.5合と言いますから酒飲みには辛いかもわかりません。私は古希間近ですが、学生時代は安酒を飲んで青臭い議論を、サラリーマン時代は会社全員での付き合い酒や、上司の悪口を言いながらの酒を飲んでいました。最近になってやっと、一日の終わりに食事と共に味わう美味しい酒を楽しめるようになってきました。
酒飲みの先輩として一つだけアドバイスです。仕事のストレスは酒では解消できません、素面で解決することです。相手をよく観察すること、人間あまり差はありません、ストレスの相手も同じ様に悩んでいます。「敵を知り己を知る事」です、それにより対策も出てくるでしょう。特に日本酒は神事から始まった特別な酒です、毎日を大切に過ごし美味しいいお酒を飲みましょう。