百人一首には31文字の中に様々な技巧や趣向が凝らされているのが特徴になっています。100種選んだ藤原定家(ふじわらのていか)が歌にかなり精通していた有名な貴族だったため、和歌について感覚が肥えていたとも言えるでしょう。
その中でも、『枕詞(まくらことば)』というものが使われている和歌がいくつかあるのですが、枕詞をご存じでしょうか?
この記事では、『百人一首で出てくる枕詞一覧!成り立ちや由来までレクチャー!』と題しまして、百人一首に登場する枕詞にはどんなものがあるのか、どのような意味があるのか、由来はあるのかなど詳しく解説していきます。
枕詞とは何か
枕詞とは何か?と質問されて、100%答えられる人は少ないと思います。
なぜなら、一般的なイメージとして、枕詞を少しでも知っている人からすると
・枕詞はあってもなくても意味が通じるものだから
・現代語訳では訳さない部分だから
・枕詞を付ける意味が分からないから
と思われているからです。
実際の意味は、
『主として和歌に見られる修辞で、特定の語の前に置いて語調を整えたり、ある種の情緒を添える言葉のこと。』
引用:Wikipedia 枕詞 – Wikipedia
とのことですが、正直ピンとこない人の方が多いのではないでしょうか。
もっと簡単に説明すると、
ある特定のキーワードの前に枕詞を付けることによって、特定の言葉がただの言葉ではなく、より意味を持った言葉に聞こえるからつけている
という事なのです。 枕詞とその後にくる言葉は必ずセットになっていますので、丸暗記さえすればいいのです。
現代では枕詞=前置きになっている
現代語で近いニュアンスとしては、一言添えることによって、内容にとげがあるものを丸くする印象に変換させたり、保険をかけるときに使われます。
例えば
・申し上げにくいことなのですが~
・私も同じ意見なのですが~
という言葉が『枕詞』と言われています。
しかし、古文で使われる枕詞というのはそれとは違い、「この言葉の後には必ずこの言葉がくる」、いわばお決まりのパターンが枕詞、になります。
そうなりますと例えば
・飽くなき+探求心
・まことしやかに+ささやかれる
・弱冠+○○歳にして~
等がイメージに近いかもしれません。
百人一首に使われている枕詞
百人一首で使われている枕詞と和歌をご紹介いたします。
・2番:春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山
(白妙の→衣)
・3番:あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む
(あしびきの→山)
・4番:田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ
(白妙の→雪)
・17番:ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
(ちはやぶる→神)
・33番:ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ
(ひさかたの→光)
・39番:浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき
(浅茅生の→小野)
・89番:玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする
(玉の緒→絶え) それでは詳しく解説していきます。
『白妙の』の成り立ちと意味
白妙とはコウゾやカジノキの皮の繊維で織った白い布のことを表しますが、白という色自体も表します。
そのため、枕詞としては、百人一首でも2種類出てきているように(衣・雪)たくさんの言葉が下につきます。
例として、
・衣に関するもの(「衣」「袖 (そで) 」「袂 (たもと) 」「たすき」「紐 (ひも) 」「領布 (ひれ) 」)
・白い色に関するもの(「雲」「雪」「波」)
・タエ(カジノキの繊維で作った布)の材料となる藤、白袴で作る木綿(昔はゆう、と読みました)と同じ言葉(「富士」「夕」)
があります。
『あしびきの』の成り立ちと意味
あしびきの、はあしひきの(足引きの)と書きます。
諸説ありますが、足を引いて喘ぎつつ登るという意味、もしくは山すその長く引いている様子の意味などが語源ではないかと言われています。
そのため、あしびきのの後につくものの例として
・山及び山を含む言葉(「山鳥」「山風」等)
・峰を含む言葉(「峰」「八峰」等)
があります。
『ちはやぶる』の成り立ちと意味
ちはやぶるとは、漢字で書くと「千早振る」と書きます。
これは、たけだけしい、荒々しいという意味の「千早ぶ」という動詞の連体形になります。
千回早く振るという字の通り、ぶんぶんと振り回すイメージになります。
そのため、ちはやぶるの後につく言葉の例として
・荒々しい氏(うじ)→「宇治」
・荒々しい神→「神」「神社の名前」「神の名前」「神とつく言葉」
があるのです。
『ひさかたの』の成り立ちと意味
ひさかたのとは、漢字で書くと「久方の」になります。
諸説ありますが、「日射す」の意味や「久方」という文字から永久という意味と捉えた、等と考えられています。
そのため、ひさかたのの後につく言葉の例として
・日が射すもの→「空」「雲」「天(あめ・あま)」「光」
・お天道様=永久という意味→「天(あめ・あま)」「都」
・そもそも天という意味→「月」「雲」「雨」「夜」等
があります。広く天や天気に関するものを表しています。
『浅茅生の』の成り立ちと意味
浅茅とは、まばらに生えたチガヤ(「かや」ぶき屋根の茅のことです)、もしくは背の高いチガヤのことを表します。
そこから、浅茅生の=浅茅が生えている野原という意味になります。
そのため浅茅生の、の後につく言葉はただひとつ、小さな野原という意味の『小野(をの)』のみとなります。 『小野』だけではイメージしづらい雰囲気を補う要素が強いです。
『玉の緒の』の成り立ちと意味
玉の緒というのは、玉を通す緒(お・細い紐)の意味になります。
また、緒は「いとぐち」とも読み、ものごとのはじまりを表します。
そのため玉の緒のの後につく言葉は
・緒の長短から「長し」「短し」
・緒(紐)が乱れたり切れたりする「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」
・玉が並んでいるようすから「間 (あひだ) もおかず」
・玉を魂と掛けて、魂 (たま) の緒の意から「現 (うつ) し」「いのち」
となります。
細いあの紐のように・・・と連想すると、儚いものを連想させてより切なさが増しますね。
枕詞は和歌のイメージを広げる大切なもの
それぞれの枕詞には成り立ちや意味があり、丸暗記で終わらせてしまうにはもったいない日本語の美しさがあることがわかりました。
枕詞があることによって、和歌に深みが増し、情景が頭の中に浮かぶという大事な役割なのです。
その他にも「たらちねの(垂乳根の)→母・親」「飛ぶ鳥の→明日香(飛鳥時代のアスカ)」「冬ごもり→春」等面白い枕詞がたくさんあります。その数は軽く200以上。
それだけ31文字の和歌でイメージさせるために重要な意味を持っていたのです。
これを機に様々な枕詞を調べてみてください。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました。